第1回:レトルト食品が広げるフルーツ農家の可能性

― 常温流通・在庫平準化・安全性の“3つの跳躍”で、収益構造を変える ―
なぜ今、レトルトなのか
フルーツは“旬”という強みの裏側に、需給の波・在庫の難しさ・廃棄ロスという課題を抱えています。冷凍は強力な選択肢ですが、冷凍保管・冷凍配送のコスト、在庫スペース、電力価格の上昇などが収益を圧迫しがち。
ここで検討したいのがレトルト殺菌(加圧加熱による密封食品の常温長期保存化)。適切な配合・包装・殺菌条件を設計すれば、常温で長期保存でき、冷凍に頼らない在庫戦略と流通コストの削減が実現します。
レトルトとは何か(要点だけ)
- 定義:充填・密封した容器包装食品を、高温高圧(例:121℃相当)で加熱殺菌し、常温で長期保存可能にする技術。
- ポイント:芽胞菌(例:ボツリヌス菌)も制御できるレベルの熱殺菌(熱履歴=F₀値の設計)がカギ。
- 容器:レトルトパウチ(袋)、ガラス瓶、缶、トレイ等。商品設計(粘度・固形量・pH)により最適解が変わります。
フルーツ農家にとっての“具体的メリット”
1) 流通面:常温流通でコスト最適化
- 冷凍・冷蔵と比べ送料・梱包・倉庫費を圧縮。
- ギフト・卸・ECの取り扱いが容易に(温度帯の制約が減る)。
- 観光土産・道の駅・量販・海外発送など販路の幅が広がる。
2) 在庫管理:シーズン平準化と廃棄ロス削減
- 収穫期に仕込み、オフシーズンに売る平準化が可能。
- 冷凍在庫の“霜・庫内劣化”リスクを回避。賞味期限設計が明確で棚卸しも管理しやすい。
3) ブランド&商品戦略:“用途特化”で価値を上げる
- ピューレ/コンポート/フルーツソース/トッピング/スプレッド/スムージーベース/低糖ベースなど、用途を明確化したSKUでBtoB・BtoCを攻略。
- 防災備蓄・常温ギフト・海外販路など高付加価値の文脈に乗せやすい。
冷凍との違い(サマリー比較)
- 品質:冷凍=生食クオリティ維持に強み/レトルト=加工用途に最適化(熱で香味設計)。
- 物流:冷凍=要コールドチェーン/レトルト=常温単一温度帯。
- 在庫:冷凍=電力・庫内管理コスト/レトルト=電力負担が軽い(常温)。
- 商品設計:冷凍=“素材のまま”の勝負/レトルト=味・粘度・具材比率など“レシピの力”で差が付く。
位置づけの目安:
生食感・素材性重視→冷凍、用途特化・常温価値重視→レトルト。両輪でラインアップを設計すると盤石です。
安全性は最優先:ボツリヌス菌リスクへの正面対応
レトルトの最大の価値は「安全性×保存性」の両立です。
- ボツリヌス菌(芽胞)対策:121℃相当のF₀値(例:F₀≒3分を一つの基準にすることが多い)で工程設計。
- pHと水分活性:一般にpH4.6以下・aw低下はリスク低減に寄与。果実系は酸性寄りで有利ですが、配合次第で境界を超えることも。
- 密封の確実性:充填・シール・真空度・二次汚染対策は**CCP(重要管理点)**に。
- バラつき管理:固形・粘度・内容量により熱の通りが変わるため、レシピとバッチ条件をセットで検証。
- 妥当性確認:熱殺菌条件の計算/バリデーション、必要に応じチャレンジテストや外部機関検査を。
法令面の要点:
HACCPに沿った衛生管理は全事業者で必須(認証取得は任意)。ただし大手BtoB/輸出ではJFS-BやFSSC22000等の外部認証が実質求められるケースが多く、ゾーニング・動線設計・記録装置は導入段階から意識しておくと後戻りが少ないです。
規模別に見える“導入の勝ち筋”(第2回で詳細化します)
- 小規模(観光農園・直売):小ロット試作→常温ギフト・詰め合わせで単価アップ。
- 中規模(地域加工・EC):SKUを整理し、常温ワン温度帯で物流コストをコントロール。
- 大規模(卸・輸出):回転式/連続式・自動記録・省エネ仕様で安定品質×コスト最適を両立。
投資対効果の考え方(ざっくりフレーム)
- 売上増分:オフシーズン販売+新販路(常温EC・ギフト・卸・海外)
- コスト削減:冷凍保管/冷凍配送→常温化で縮減、廃棄ロス低減
- 運転資本:在庫回転/キャッシュフローの平準化
- リスク低減:停電・冷凍庫故障など温調依存リスクからの解放
収益式イメージ:
粗利増(単価↑×販売機会↑)+物流・保管費↓+ロス↓ − 減価償却 − ランニング
→ 補助金で初期負担を圧縮できれば、回収期間は大きく短縮します。
補助金活用の方向性(第3回で制度を深掘り)
- ものづくり補助金:レトルト釜、充填機、攪拌・脱気、記録装置、金属検出機等の一体導入で高採択を狙う設計が可能。
- 食料産業・6次産業化交付金:地域果実の高付加価値化として訴求。
- 新事業進出補助金:常温ギフト/海外常温流通など新市場への展開に合致。
- 省力化補助金:自動計測・自動記録・自動搬送等の省人化を設計に盛り込む。
- (周辺ハード次第で)省エネ系:高効率蒸気・熱回収など、年度要件に応じて検討。
実務のコツ:「設備カタログの羅列」ではなく、
〈商品設計〉→〈品質・安全設計〉→〈生産設計〉→〈流通・販売設計〉を一貫ストーリーで書くと採択率が上がります。
リラボの伴走支援(導入~申請~運用)
- 商品レシピと熱殺菌条件の整理(F₀設計・バリデーション計画の道筋づくり)
- 設備仕様の要件定義(規模・回転/静置・記録・省エネ・容器整合)
- HACCP体制・ゾーニング・SOP整備(将来の外部認証も見据えた設計)
- 補助金申請書の作成(費用対効果、KPI、工程・品質・流通の統合計画)
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